研究概要 |
本年度に実施した研究において以下のような成果が得られた。まずは、経済格差を時系列アプローチによって分析する研究計画においてその基礎部分にあたる時系列分析の研究を進めた。一つには、長記憶性を持つもの時系列に対する推定および検定を整理した研究を行った。これらの研究は既存のARFIMAモデルの性質および推定法を研究したものと長記憶性に関わる検定の問題である。これらの研究は、西埜(2010)『長記憶性をもつ時系列について-ARFIMAモデルに対するパラメトリツク推定』千葉大学経済研究,第25巻第2号139-165頁および西埜(2011)『長記憶性時系列と検定』日本統計学会誌,Vol.40 No.2,147-175頁に発表されている。 二つめには、経済格差を時系列に取り込むために柔軟なモデリングを可能にするMCMC法を長記憶時系列に適用する手法を研究したものである。当該研究によってARFIMAモデルにMCMAC法を適用するには、Whittle法を用いることで実用的な推定ができるとの結果が得られた。その研究についてはBayesian Estimation of ARFIMA modelsとの題名で、日本経済学会2010年度春季大会、10th International Vilnius Conference on Probability Theory and Mathematical Statisticsおよび2010年度統計関連学会連合大会で報告を行った。またこの研究の成果はBayesian Whittle estimation of ARFIMA modelとしてWorking Paperにまとめてある。 さらに、経済格差を時系列に取り込んだ研究としては、分位点を部分順序統計量としてみなして漸近分布から導かれる正規近似を使うことで、MCMC法によりモデル化し、シミュレーション研究および実際のデータを用いた推定を行った。この対数正規分布を用いた研究で、所得格差のPersistencyを示すことができた。この研究は、Bayesian Estimation of Persistent Income Inequality by Lognormal Stochastic Volatility Modelとの標題で、INTERNATIONAL WORKSHOP ON APPLIED BAYESIAN STATISTICS AND ECONOMETRICSで報告が行われている。 本研究課題では時系列モデルに対して、その統計的方法をより深く調べるとともに、MCMC法のように計算機インテンシブで柔軟なモデル化が可能な方法を追求してきた。そして、結果も得られつつあるので、当初の研究計画が少しずつ進展してきていると考えている。
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