グレンジャー因果検定理論と一方向因果測度のWald検定の理論および応用について研究を行なった。周波数領域における一方向因果測度により多変量時系列の長期と短期因果関係を解明できる統計分析手法を開発し、相互因果測度と結合因果測度などの数値計算プログラムの開発を実施した。マクロ経済とくに金融証券指標間における一方向因果関係を分析できる汎用的なプログラムを更新し、共和分時系列間における複雑な偏因果関係に関する計量分析アプローチを検討した。これらの研究結果は今後の経済実証分析を幅広く、より深く探ることに寄与できると思われる。 2008年世界金融危機が世界マクロ経済発展に大きな影響を与えたと広く認識されている。本研究ではこれまで申請者が行ってきたの一方向因果測度のWald検定に関する理論研究と開発したプログラムを応用し、金融危機発生する前後の日米中主な経済証券指標間における一方向因果関係に関する実証分析を中心に行った。世界最大経済規模の日米中について、一方向因果測度のWald検定を用いて、国家間証券市場相互影響のメカニズムを明らかにした。また、ニューヨーク証券取引所のダウ工業平均(DJI)と東京証券取引所の日経総合指数(N225)とは互いに影響し、上海証券取引所の上海総合指数(SSEC)のほか、ソウル証券取引所のKOSPI、香港証券取引所のヘンセン指数(HSI)および台湾証券取引所のTWIIを加え、米国とアジア主要証券市場の一方向因果関係をより詳しく分析した。最終年度にはパリ証券取引所のCAC40、フランクフルト証券取引所のDAXとロンドン証券取引所のFTSE100などを用いて、欧州証券市場と日中証券市場の一方向因果関係を分析した。とくに香港証券市場と上海証券市場との経済特質がよく相似し、HSIまたSSECはニューヨーク証券市場のDJIとの一方向因果影響が有意でないことを示した。
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