平成21年度は、家計の貧困の動態についての分析に関連して主観的幸福についての実証分析を行い、Discussion Paper(DP)にまとめた。これは外国雑誌に投稿中である。また、家計の貧困と主観的社会的ポジションについての実証分析を行い、論文をまとめつつある。 DP論文では、ベイジアンの順序プロビットモデルの手法によって各国の主観的幸福の分布の推移を調べ、その不平等を計測した。データはWorld Value Survey(WVS)の所得や主観的幸福に関するミクロデータを用いた。そこでは、"regret"という概念を提示し、Markov chain Monte Carlo(MCMC)法で計測することで、主観的幸福の分布の推移や不平等を計測した。経済の発展に伴い所得が上昇することが国民の主観的幸福を高めるとの関係は必ずしも支持されておらず長く分析の対象となっている。DP論文では、一人当たりGDPの増加と主観的幸福の上昇はみられるが、国々を4グループに分類したところ、グループに応じてGDPの変化と主観的幸福の変化に違いがみられた。 作成中の論文は、日本家計のミクロデータを用いて貧困家計とそうでない家計では、主観的社会的ポジションに違いがあることをベイジアンの順序プロビットモデルを用いて実証的に示すものである。 われわれの研究の目的は、「家計の貧困を計測するために有効な計量経済学的手法を提示するとともに、分析された国々の貧困について従来の研究に新たな知見を加えることを目的とする」ことである。上記研究は、家計の貧困研究に人びとの主観という視点を取り入れるという意義をもつ。その結果、社会学や心理学などでの研究の蓄積を取り入れることになり、貧困を所得など一面的な基準でとらえるのではなく、複数の側面からとらえる方法の開発につながる。また、計量的にもベイジアンの手法で主観的幸福感のような順序データと貧困との関係を分析する手法を開発することになる。そして、WVSを用いているため国際比較を可能とする分析になっている。
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