本研究は,1)航空輸送事業領域,2)航空輸送関連の垂直的事業領域,3)国際化・多国籍化に関する事業領域,以上3つの事業ドメインの変化と経営効率性ならびに経営業績に与える影響について検証することを目的とする。当該年度においては,航空会社・海運会社・物流会社を対象に,海外子会社・現地法人における出資比率や駐在員比率などの国際経営にかかわる決定要因について,産業組織論,取引費用理論,国際経営論の視点から分析を行った。最終的な分析結果ではないが,海外進出先において補完的資産を必要とする場合,母国と海外進出先との間で制度の違いが大きい場合,出資比率ならびに海外子会社への関与の度合いが小さくなり,母国と海外進出先との間での文化的距離が大きい場合,海外子会社の事業年数が大きい場合は,大きくなる傾向にある。 第2に,航空会社の上記3つの事業ドメインの変化とその経済的影響について総括した。航空会社は,航空輸送事業により多くの経営資源を投入するとともに,ネットワーク,運賃,サービスにおける多様化・高度化などに着手している。これらは,顧客のニーズと支払い意志にきめ細やかに対応し,より多くの便益を利用者にもたらし,需要を創出するものである。 これらの多様化や高度化は,航空会社の組織・経営に関する創意工夫によってもらされたものである。もっとも重要なのが,グローバル・アライアンスなど国際化にかかわるさまざまな取り組みであり,新しい価値を提供することを可能にしている。 一方,多様化する企業行動・戦略ならびにサービスの特性と品質に伴い,競争,所得分配,消費者保護にかかわる問題がより複雑化することが予想され,これらの問題を補正するための各国政府の政策展開の実態や国際的な整合性について分析するともともに,今後の制度設計のあり方など規範的な分析をおこなっていく重要性を認識した。
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