研究概要 |
平成22年度において,垂直的な貿易構造の下での自由貿易協定(FTA)について,FTAの厚生効果という観点から理論的に分析を行い,2本の論文を作成した。1つは,"Vertical trade and free trade agreements"である。この論文は,垂直的な貿易構造の下でのFTAが加盟国・非加盟国の関税や経済厚生に対してどのような影響を与えるのかを分析している。中間財を輸出する1国と最終財を輸出する2国という3国モデルを用いて,中間財輸出国と最終財輸出国1国の間のFTAについて考える。FTAは必ず加盟国の関税を低下させるが,非加盟国の関税を上昇させるかもしれない。FTAが非加盟国の関税を上昇させる場合,非加盟国の経済厚生は増加することになる。FTAは,加盟国の経済厚生を増加あるいは減少させる。したがって,FTAの締結は,必ずしもパレート改善とはならないのである。この論文は,Journal of the Japanese and International Economiesに受理され,掲載された。もう1つは,"Welfare effects of free trade agreement under vertical trade with a manufacturing base"である。この論文は,最終財輸出の1国と中間財輸出の2国という3国モデルを用いて,FTAの厚生効果について考察している。これは,Free Trade : Characteristics, Economics and Oppositionに掲載予定である。これらの研究成果は,東アジアに特徴的である垂直的な貿易構造を踏まえ,既存の研究で十分に明らかになっていなかったFTAの効果を明らかにしており,また日本や東アジア諸国のFTA戦略を検討する上でも有用であると考えられる。
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