研究概要 |
平成23年度において,垂直的な貿易構造の下での自由貿易協定(FTA)について,FTAの厚生効果という観点から理論的に分析を行い,論文2編を作成した。1編は,"Free Trade Agreement and Vertical Trade with a Manufacturing Base"である。この論文では,最終財の生産拠点となっている1国が2国から中間財を輸入し,そこへ最終財を輸出するという3国モデルを用いて,最終財の生産拠点である1国と中間財輸出国1国の間で締結されるFTAが関税や経済厚生に与える効果について分析している。FTAは加盟国の関税を低下させるが,域外国の関税を上昇させる。FTAによって,域外国の経済厚生は必ず増加するが,加盟国の経済厚生は増加あるいは減少することになる。したがって,FTAの締結は,必ずしもパレート改善とはならないのである。この論文は,Review of International Economicsに受理された。もう1編は,「垂直的な産業構造の下での自由貿易協定の域外国に対する影響」である。この論文では,中間財の独占企業と最終財企業をもつ国,最終財企業だけをもつ国,最終財市場をもつ国という3国モデルを用いて,国内に中間財企業をもたない最終財輸出国と最終財輸入国の間のFTAが域外国に与える影響について考察している。これは,『現代経済理論と政策の諸問題』に掲載予定である。これらの研究成果は,東アジアに特徴的である垂直的な貿易構造を踏まえ,既存の研究(水平的な貿易構造を分析対象としている)で十分に明らかになっていなかったFTAの効果を明らかにしており,さらに日本や東アジア諸国のFTA戦略を検討する上でも貢献を果たしていると考えられる。
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