研究概要 |
今年度の研究成果は学会発表論文“Environmental matching agreements among asymmetric countries"の内容に集約されている.本論文では越境汚染問題に対処するための非対称な国家間による環境マッチング協定の有効性をゲームモデルにより検証している.先行研究において,各国は同一の利得関数をもつ対称的なプレイヤーとされているが,現実の越境汚染問題に関する交渉では国の置かれている状況の差異が合意形成を妨げる重要な要因の1つとなっている.そこで本論文では非対称な国々による効率的なマッチング協定の自己拘束性に焦点をあてた分析がなされる。協定の第1段階でマッチング・ルールの周知および所得移転額の決定がなされ,マッチング協定が締結される.協定への参加を拒否する国が現れた場合,マッチング・ルールは適用されない.すべての国が協定に参加する場合に限り,ゲームは第2段階以降に進む.第2段階ではマッチング率,第3段階では(各国のマッチング率の値を所与として)基準削減量がいずれも非協力的に決定される.各国は自国の基準削減量に加え,マッチング率と他の国の基準削減量に依存した量の追加的削減を命じられる.非対称な国家によるゲームの分析を行った結果,効率的な結果を導く自己拘束的な協定が存在することが明らかになり,従来の研究結果を非対称な国家という,より現実的な枠組みに拡張することに成功した.国際環境協定におけるただ乗りを阻止することが困難な状況で,マッチングの考え方は1つの大きなヒントを与えるのではないかと思われる.なお学会発表論文「非対称な国家間の環境マッチング協定」は上記論文の日本語版であり,まったく同じ内容である.
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