研究概要 |
平成22年度は,まず技術非効率性と補助金との関係について分析を行った.分析には,DEAにより技術非効率性を計測した後にブートストラップ法を用いて補助金が技術非効率性に与える効果を推定するというSimar and Wilson(2007)の方法を用いている.その結果,公営地下鉄を経営している当該市からの補助金と料金繰入は技術非効率性を大きくする効果を持っていることが示された.これまで公営地下鉄の効率性と補助金については,明確な結果が得られていなかったが,補助金が公営地下鉄の効率性に対してマイナスの影響があることを示したということに意義がある.また,事業者が経営改善について考える上で参考になるものと思われる.次に配分非効率性,技術非効率性,規模の経済性を,先行研究が用いているような費用最小化を想定している通常の費用関数ではなく,一般化費用関数を推定することにより計測を行った.一般化費用関数では,事業者は直面している現実の生産要素価格において費用を最小化しておらず,シャドー価格において費用最小化していると仮定している.推定では,資本を固定的生産要素とする可変費用関数を用いている.推定により,わが国の公営地下鉄はその他投入要素と比べて労働を過少に使用していること,配分非効率性は0.05%程度であり,技術非効率性は44%程度であること,費用関数の近似点において規模の不経済が存在していることが得られた.資本を固定的生産要素とした場合には,それほど大きな配分非効率性は発生していないという結果は,公営地下鉄の事業者の行動を考える上で興味深い結果となっている.しかし,事業の特性を考慮すれば,資本を可変的生産要素とした長期の場合の分析が必要であろう.この点は課題として残されている.
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