日米の科学者が共同研究を行うことによって、異なる研究グループが発展させた知識が交換され、さらに新しい知識が創出されると期待されている。一般に、共同研究が行われるきっかけはいくつか考えられるが、国際移動を行った研究者が送り出し国と受入国のチームをつなぐブリッジの役割を果たすという仮説がある。しかし、実際にそのようなケースがどの程度存在するのか、明らかにはなっていない。また、研究者間の物理的距離は、暗黙知の移転や信頼の形成・維持などにネガティブな影響を与え、共同研究を妨げるという説もあり、科学者が国を離れれば、移動元との共同研究は行いにくくなることも考えられる。したがって、実際に国際移動を行った科学者の共同研究ネットワークを調べることが重要になる。 平成21年度は、日本からアメリカに渡った科学者の共同研究ネットワークのデータを収集し分析した。日本人科学者は、渡米後に帰国し日本の大学や研究機関で研究する場合と、そのままアメリカに定着し研究を続ける場合に大別される。平成21年度は1995年にアメリカのマサチューセッツ工科大学(MIT)で研究を行っていた科学者が、その後に日本に帰国したのか、あるいはアメリカに定着したのか、そのキャリアを調べ、かつ、2009年までに発表した論文等の情報を収集して、彼らの共同研究ネットワークの時系列的変化を観察した。膨大なデータを収集するのに時間がかかり、ネットワークの詳細な分析には至っていないが、暫定的な結論として、日本に帰国した科学者のアメリカとの共同研究ネットワークは、移動の時点でほとんど消滅し、維持される場合でも数年であること、それに対して、アメリカに定着した科学者の日本との共同研究ネットワークは維持される傾向があることがわかった。平成22年度は集めたデータの詳細な分析を進め、暫定的な結論を検証し発展させ、結果を発表する予定である。
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