2010年度は、科学者の国際移動が知識の移転と創出に与える影響を考察するために、アメリカに移住して研究を行った日本人研究者がリターンマイグレーションを行うことにより、アメリカ滞在中の共同研究者との共同研究ネットワークのタイは途切れるのか、また、維持されるならば、どのような性質のタイが維持されるのかを、Web of Scienceに収録されている書誌情報を用いて分析した。日米間の空間的距離は、フェイス・ツー・フェイスのインタラクションによる知識交換を必要とする共同研究の障害になり、日本人研究者の帰国後には共同研究のタイの9割は消滅する。しかし、国籍を同じくする研究者との共同研究や、在米中に共同研究を数多く重ね、社会的距離が短い共同研究者との共同研究は、継続される確率が高まることが明らかになった。さらに、研究者キャリアのどの段階において海外で研究を行い、また、どの段階で帰国するのかということも、ラボのマネジメント施策やラボにおける人間関係の形成と関連して、帰国後の共同研究におけるタイの継続に影響を与えることが見出された。この研究は、従来別々に行われる傾向のあったマイグレーション研究と知識創造の研究をつなぐ意義をもっている。 また、2010年度はアメリカに移住したまま帰国しない日本人研究者の共同研究ネットワークと論文の引用・被引用のネットワークに関する長期的なデータを収集した。その収集に膨大な労力を要したため、詳細な分析は来年度に持ち越される。この研究は、在米日本人研究者を介して、形式知と暗黙知がどのように生み出され、また、国境を越えて世界的にどのように移転されていくのかを明らかにするためのものである。さらに、この研究を通じて、在米日本人研究者は日米間の科学的知識の移転と創出にどのような役割を果たしたのかが明らかにされる。
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