本年度は主に、アメリカに移住した日本人科学者(頭脳流出のケース)と移住後日本に帰国した科学者(頭脳還流のケース)の国際共同研究ネットワークと研究場所が研究成果に与える影響について理論的・実証的研究を行った。分析の結果、頭脳流出と還流の両方において、アメリカで行った研究は日本で行った研究よりも、論文の被引用回数ではかったインパクトが高い傾向があることが明らかになった。また、先行研究では、マクロ的な分析により、国際共同研究ネットワークが研究成果を高める傾向があることが見出されていたが、国際共同研究ネットワークを構築するような研究者はもともと研究成果が高いのか、あるいは、国際共同研究ネットワークが研究者の研究成果を高めるのかが区別されていなかった。そこで、研究者個人に着目して、国際共著という形態をとったときに研究成果が高まるのかを検証した。その結果、頭脳還流の一部のケースにおいて、国際共同研究ネットワークの有効性が確認されたが、頭脳流出のケースにおいてはその効果は観察されなかった。したがって、マクロ的な視点をもった先行研究では、国際共同研究ネットワークの効果が過大視されていたといえる。本研究の結果は、日本の研究環境について重要な問題を提起している。また、研究者を海外、特にアメリカへ派遣したり留学させたりする政策の重要性を示唆している。さらに、国際共同研究ネットワークが効果をもつためには、稀少資源の利用や補完的能力の活用、特別な設備の利用などの条件が必要なことを示唆している。
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