研究概要 |
我々は,これまで日本の自動車部品産業における事業所間の技術の外部性および集積の効果について,空間計量経済学の手法を用いて定量的に分析を行ってきた(Yosuke TAKEDA and Ichihiro UCHIDA, "Technological Externalities and Economic Distance : A Case of the Japanese Automobile Suppliers. "RIETI Discussion Paper Series 09-E-051).本研究は,その成果の一部を活用しながら,平成22年度は,以下のテーマについて研究を進めている. 第一に,本研究はPrescott and Visscher(1980)によって提示された,資本の調整費用における「組織資本」の役割について理論的に整理を行っている.組織資本は,企業の調整費用の発生において,以下の3つの側面に関わる.(1)情報蓄積・共有,(2)経営管理の範囲(Span of Control),(3)リスク回避である.第二に,本研究は日本の自動車産業がリードするハイブリッド技術の導入に際して,上記の側面を通じた組織資本による調整費用の軽減の程度について定量的に分析する.ハイブリッド技術は,ガソリン車から電気自動車へと不可逆的に移行する自動車の駆動系技術において鍵となる製品技術革新であり,調整費用の発生を不可欠としてきた可能性が高い.また,今回の東日本大震災によって自動車産業は,長期間生産活動がストップすることになったが,組織資本に対する企業の調整費用の推定は,今後の自動車産業に大きな示唆を与えるものと予想される. 実証分析において本研究は,Cooper and Haltiwanger(2006)に従って,日本の自動車産業の事業所ベースのデータを用いてSMM(Simulated Method of Moment)に基づいた企業の動学的1階条件を推定する.この推定では,調整費用関数の形状が凸性を有するか,非凸性かが問われる。 データについては,1980年から2008年の『工業統計表』個票データ(産業分類:3012,3013)のデータベース化がほぼ終了している.
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