携帯電話技術は、非常に多くの補完的技術を集積させ、それを一つのシステムとして機能させている。本研究では、携帯電話事業における垂直的な取引関係を考慮に入れつつ、技術補完性が市場競争や経済厚生にどのような効果を及ぼすかについて、理論的分析を進めている。その結果、現時点で次のような研究結果を得た。 1. 技術開発企業が補完的技術と企業特殊的技術の2種類の技術を利用する場合、使われる技術の補完性が高いほど、企業特殊的技術への投資比率が高まり、補完的技術への投資比率が過少になる。これは補完的技術が重要である携帯電話技術において、メーカー間で共通に必要とされる部分の技術への投資が社会的に過少になることを示唆する。 2. 技術開発企業と最終財製造企業との間で垂直的統合が行なわれており、そのような垂直的統合企業が複占競争をし、かつ両者間でパテントプールが形成されているとする。この場合、製造の限界費用の低い企業の方へ、パテントプールの特許収入の配分を多くすると、経済厚生が低下する。このことから、携帯電話技術のパテントプールにおいて、特許収入の配分方法を適切に設計する必要があることが指摘できる。 3. 製品の実質的な耐久性を分析するに当たり、ビルトインされた耐久性のみならず、メンテナンスの効果も考慮に入れると、ビルトインされた耐久性と実質的な耐久性の両方が社会的に過大になる場合がある。 上記の結果は、本研究において初めて発見されたものであり、理論的に高い貢献をなすものである。また、本研究は今後の携帯電話事業に関する政策を検討する上でも、重要な理論的基盤になり得るものである。さらに、本研究が提示している論点は、携帯電話事業に限らず、幾つかのハイテク産業においても共通して見られるものなので、理論的成果の応用範囲は広い。
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