このプロジェクトの目的は、アグロメレーションと成長理論という新たな経済地理学に基づいて、地域経済動学におけるひとつの理論を構築することである。本プロジェクトではまた、異なった環境にある複数の異種世帯を、該当地域における成長モデルとして注目していく。この研究の特色は、輸送コストと技術的変化から経済地理学を研究するばかりでなく、資本蓄積をも理論に取り入れていることである。多地域モデルの多くが資本蓄積を取り扱っていないことは良く知られており、現代の文献においてほとんど言及されていない新たな挑戦課題といえよう。資本蓄積に関しては、動的収入と財産配分、また通貨経済学の理論をもとに私自身が構築した、成長理論の新しいアプローチを採用する。本研究は以前のアプローチとは異なり、なぜ地域間格差が広がり、どのような条件下で徐々に定着していくのか、についてより効率的に説明するものであり、財産、資本蓄積、アグロメレーション、規模あたり収益などに関し、収入と財産配分の地域経済動学理論を進展させるものである。新たな経済地理学を構築するために、このプロジェクトは輸送コストと人的資本形成を視野に含めながら、財産と資本蓄積に関する地域間相互発展の研究におもに焦点をあてる。特に、各地域において増加あるいは減少する財産、資本、知識、人口、人口移動の量、輸送手段それぞれの項目の果たす役割について注目していく。従来の成長理論はこれまで、空間に関する事項を扱う経済学的メカニズムももたないという理由で、多地域間において作用する動的力学を十分に説明できずにいた。今回の研究では、地域科学と経済地理学におけるもっとも大きな課題に挑戦する-すなわち、内因的資本蓄積と技術的変化にともなう、異種世帯における多地域経済成長・発展モデルを構築する、ということである。 本年、今プロジェクトでは近年の文献を包括的に見直し、全体的な分析的枠組みを作ることに専念した。都市と地域間構造の相互作用、また、資本蓄積、財産、輸送コスト、コミュニケーションコスト、知識創造、またその活用など、それぞれの事項に関して、地域経済の文献のなかでどのように分析されているのかを調査した。本研究は今、新たな経済地理学と現代成長理論のモデルに基づき、経済地理学におけるさまざまな力学の、複雑な相互作用を視野にいれた、分析的枠組みを構築し始めた。本理論では、財産、内因的資本、人的資本、人口移動、輸送手段、経済構造、輸送コストにおける相互作用を一貫した枠組みの中で取り扱っていく。本研究のこれまでの成果については、既述のジャーナルに一本、別のジャーナルにもう一本論文が掲載され、そして国際会議において3度発表が行われている。
|