研究では、道路運送(乗合バス、貸切バス、タクシー)市場に関する調査を通じて、規制緩和がネットワークを持ち、実際には弱い規制をめぐる規制当局とのゲームにも直面する企業の行動にどのような変化をもたらしたかを明らかにした。その際、各市場で規制緩和後に生じた市場構造に差があることに着目した。 わが国では、貸切バスが2000年に、乗合バスとタクシーが2002年に、2年の時間差を置いて規制緩和された。その前後に、乗合バス市場では新規参入が少なく、貸切バス市場とタクシー市場では新規参入が多い。とくに貸切バス市場では、規制緩和直前にも新規参入が多いが、その理由は、インタビュー調査によると、規制時代のレントが相当な準備期間を置いた参入を促したためである。規制緩和直前と直後の参入者に定性的な差は見出せなかった。 新規参入企業には、タクシーから貸切バス、さらに乗合バスへと段階的に参入したケースが多い。タクシー業の前身がトラックを中心とした物流業というケースもあった。運転士の業態間兼務やシステマチックな配置転換による範囲の経済を期待したケースがある。しかしそのような人事管理に成功した例はまれである。乗合バスと貸切バスの中間に位置づけられるコミュニティバス、3サービスの中間の需要応答型輸送(DRT)などの境界型サービスに関するイノベーションによって、業態間の資本移動が起きている。境界型サービスに関する規制緩和後の政策対応によって、道路運送産業の構造が決定づけられている面が大きいことがわかった。
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