今年度の目標は、liquidity sump theoryを実証することであった。計画したとおり、日本が1990年代以降に経験したことに通ずる理論を発展、一般化した論文を作成した。この論文及び関連論文一点を三度、会議で発表し、その基本的な考えについて高い評価を受けた。論文は現在レビューの段階にあるが、現在これをさらに発展させるとともに関連する理論的及び実証的論文に取り組んでいる。このliquidity sump theoryは、日本が経験してきた事実に合致するように思われる強力な実証的示唆を多く含む。現在、この理論をより厳密にテストするための経験的モデルの構築に取り組んでいる。またこの理論は、通常の政策提言とは根本的に異なる重要な政策的示唆も含む。実際にこの理論によって、『失われた10年』と以降の金融及び財政政策の無力さを説明できる。私の理論は、現在の世界金融恐慌にも関連しており、当時と現在の状況の類似点及び相違点を説明するための予備的な取り組みを行ってきた。『日本の大停滞』とそれに類する経済危機に関する書籍、学術論文も多数執筆してきた。現在は日本を対象にデータベースを構築中である。関連するテーマを研究する博士課程の学生二名の指導にもあたっている。研究の方向性の一つとして、理論の核心の検証に利回り曲線ダイナミクスを利用する。またもう一つの方向性は、政府系貸出機関を反循環的な貸出業務に利用する新たな方法を模索することである。
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