「市場」の最大の機能とは、社会に偏在する情報や知識を「価格」というシグナルで集約することであると伝統的経済学は教える。この市場の機能を、ITの力によって増幅させ、より積極的に活用しようと考えるものが、「未来の予測」を証券に見立てて売買をおこなう「予測市場」である。予測市場は、特に米国での活用が著しい。例えば、1998年より運用が始まったIowa Electronic Marketsは、そのシンボル的な存在である。本研究は、予測市場の活用を単純な未来事象の予測に限定せず、特に経済分野における意思決定問題に応用する方法について考察し、その将来性について議論している。 本年度は、売上予測などをおこなう企業内予測市場を参考に、小中規模の閉じたグループで、いかに面白いアイディア、イノベーションを生み出すことができるかという、「アイディア市場」構築の研究をおこなった。アイディア市場は、証券化されたアイディアが実際に遂行されるという保証がないため、事後的な結果を見て決済をおこなうという通常の予測市場の手法が取り難い。よって、この不都合を解消するために、どのような事後的決済方法が可能かを理論的に考える必要がある。ひとつの解決策は、同じアイディア市場を並列的に開設し、一方が他方の結果を予測させることである。 さらに、こうしたWeb上の実験を促進したり、実際の企業内予測市場を活性化したりするためには、被験者を集めやすくするための仕組みが必要である。本研究は、その仕組として、シングル・サインオンシステムを核とした、ソーシャルメディアの複合サイトを構築した。例えば、このサイト中のマイクロブログシステムは、多数の被験者に多様なアイディアを容易に「つぶやかせる」ことを可能にし、「市場に上場させるためのアイディア」の収集を容易にしている。こうしたアイディアのクラウドソーシングは、予測市場が依拠する集合知の考え方との融和性が高い。
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