研究課題
エリートと大衆の2階層からなる内生成長モデルに地政学的な政治競争を付加したモデルを展開し、モデルを用いて理論分析と理論妥当性の確認のための実証研究を行った。理論分析では、国民経済を自己への奉仕システムにしうるエリートが政策決定権を握っているとき、そこで採用される政策は極めて成長志向的になりうること、しかし、その政策が大衆の権力奪取「能力」を高めるとき成長志向は厳しく制約されることが示された。とくに、こうしたエリートと大衆の権力奪取をめぐるゲームの下で、国民経済が国際紛争の危険に晒されると、エリートと大衆の間に外国を「共通の敵」とする協調が成立し大衆の権力奪取「意思」低下による制約緩和と政策決定における成長志向が生じることが示された。実証分析では、国際紛争の数を各国の紛争からの距離によって基準化した新たな政治的(地政学的)不安定性指標を作成した。そして、指標を用いて不安定性と成長の正の相関を確認するとともに、物的・人的資本・TFPの増大などの成長要因が不安定性のもたらす政府の投資・教育支出増大と消費支出減少と強い相関があることを見出した。これらの実証結果は、理論分析の結果と整合的であるが、とくに、以下の研究上の意義を指摘することができる。まず理論面では、従来の政治経済学モデルは類似の政治体制下にある国々の成長成果の差異を必ずしも十分に説明できていなかった。しかし、本研究は、地政学的不安定性という当該国には十分に制御できない要因が各国の成長と密接な関連を持っていることを示したことから、成果多様性の背景にある新たな要因の解明に寄与したということができる。次に実証面では、独自の政治的不安定性指標を構築しその指標が成長と極めて強い相関を持つことを示した。このことから、成長回帰分析に不可欠である操作変数について外生性を十分に担保した優れた変数を新たに構築・発見したということができる。
すべて 2009
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Discussion Paper(Society of Economics, Nagoya City University) No.512
経済研究(一橋大学経済研究所) Vol.60
ページ: 228-240
Corporate Ownership and Control Vol.7
ページ: 9-17