研究課題
非民主主義体制下では、本来的に平等に扱われるべき経済主体が政治リーダーや官僚組織との親密度によって政策上の差別的な扱いを受ける政治的縁故主義が発生する。2010年度の研究では、こうした政治体制が引き起こす国民間の分断戦略が、経済の安定性にいかなる影響を与えるかを中心に分析を行った。アジア金融危機以来、政治的縁故主義は途上国の経済不安定性の大きな原因として非難されてきたが、これら批判はなぜ政治的縁故主義が経済不安定性の原因になるのかという根本問題については詳しい検討なくなされてきた経緯がある。このため、最近では、縁故主義批判に対する反批判がなされることも多くなっている。研究では、こうした文献の現状を踏まえ、標準的な課税モデルに政治的縁故主義を導入した政治経済学モデルを構築し、それに基づき政治的縁故主義が経済不安定性をもたらす自然なメカニズムを提案した。モデルでは、政府が政府と各民間主体との関係の親密度のインデックスに従い各民間主体の効用に異なるウエイトを付与した「歪曲された」ベンサム型社会厚生関数を最大化する。この状況の下で、民間主体は差別政策に反応して租税忌避を目指した非効率な生産要素移動を引き起こす。この政府と民間主体の相互作用の重要な点は、もともと戦略的相互依存関係にない民間主体同士の間にも相互作用を引き起こしドミノ反応的な生産要素移動をもたらす点にある。こうしたドミノ反応は、政治的縁故主義が引き起こす生産要素移動が一種の自己強化メカニズムを持っていることを意味しており、それは経済の均衡の一意性を崩すものとなる。すなわち、民間主体の期待やファンダメンタルズへの小さなショックが大きな経済変化を招くことを合理的に論証できることから、従来の研究で明確でなかった非民主主義体制下の政治的縁故主義と経済不安定性のリンクを理論的に説明することができるようになるのである。
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Discussion Paper(Society of Economics, Nagoya City University)
巻: No.535 ページ: 1-22
効率性と公平性:企業活動と開発・環境の経済分析(ミネルヴァ書房)
巻: (単行本所収 近刊)
週刊エコノミスト
巻: 2010/9/7号 ページ: 48-51