研究概要 |
本年の当初の計画では、ICTの進展と経済発展の関連付けの体系化とモデルの構築の準備を行う予定であったが、一層のICT資料調査のため、本年はモデルの構築を中心に行った。モデルでは、ICTの進展を技術履行の進展に置き換え、その学習プロフィールを、先行研究Coming and Hobi jn (2007)と異なり、経済学の多方面で一般的に利用されているS字型と仮定してモデルに導入した。 以下では、モデルの一般均衡体系における定常状態での比較静学の主な結果を述べる。(1) 中間財企業の生産性の履行プロセス過程の途中で学習の効率性のスピードが上昇しても、生産性の成長率が低下するという、先行研究とは逆の結果が得られた。これは、スピードが急速に上昇するためにはある程度大きな履行費用がかかり、そのため、中間財企業への資源投入が行われ、特許や新技術などの生産性の効率性を創出する研究開発部門への資源投入が低下するためと考えられる。(2) 生産性の成長率(最終的には所得)が先行研究で得られた成長率(所得)よりも大きくなるかどうかはパラメータに依存する。この結果は、パラメータの値によっては先行研究で得られている成長率より高くなる可能性を示唆している。(3) 最適な技術の導入の初期履行水準は本稿で得られた水準が彼らが導出した水準よりも高いことが確認でき。また本成果を、2009年12月5日に開催された九州経済学会第59回大会において「経済成長における技術の履行水準に関する分析」とうタイトルで報告した。これらの結果は、採用する技術の履行プロフィールが所得格差にどのように影響するかという点を明らかにしており、本研究の最終目的に沿うものである。 これに関連して、前年度からの研究成果である「グローバル的経済環境変化による所得不平等の実証分析-OECD諸国を中心に-」『九州経済学会年報第33集』も発表した。 参考文献:Coming, D. and Bart Hobi jn (2007) "Implemehting Technology," NBER Working PaPer 12886.
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