研究概要 |
当初の計画では、ICTの進展と経済発展の関連付けの体系化とモデルの実証性の確認を行うことを予定していた。実際は、昨年構築したモデルの精緻化とそれに関連する実証的研究を行った。モデルの精緻化は、定常状態における一般均衡解をより厳密に導出した。実証的研究では、昨年構築したモデルで導入している技術の履行水準の程度に相当する代理変数(データ)をICTの投資割合などとして、それらが経済成長や所得の不平等とどのように関係しているのかを、重回帰分析などによる実証分析を行った。以下、上記で行った研究結果を述べることにする。 モデルの精緻化:(1)一般均衡解における経済変数の定常状態が明確にでき、それに付随する値が得られた。(2)技術の履行水準に関連する学習率のパラメータが大きければ、本モデルで得られた定常状態の生産性の成長率は先行研究であるComing and Hobijn(2007)で得られた成長率よりも低い。(3)技術の履行プロフィールに依存して生産性の成長率(最終的には経済成長率)が決定され、そのプロフィールは所得の不平等にも影響を与える。 実証分析:(1)所得の不平等(ジニ係数)に関してはTFP(全要素生産性)のみが有意で、GDPに対するICT投資の割合が有意であるとう明確な結果は得らなかったが、ICTの進展が所得の不平等を拡大させる可能性があることを示すことができた。(2)ICTの進展は経済成長を促進させる。ただし、実証分析に関してはICTの代理変数(データ)に関しては、多角的な観点を考慮して、さらに慎重に採用する必要があり、今後の課題である。 上記の研究成果として、モデルの精緻化に関しては「経済成長における技術の履行水準に関する理論分析」『県立広島大学 経営情報学部論集』第3号、共著として"Analysisi on Technology Implementation and Economic Growth,"USA-China Business Review(近刊)を発表し、実証分析結果に関しては九州経済学会(九州大学)にて「ICTと経済成長の実証分析~所得の不平等の要因を中心に~」を報告した。 参考文献:Coming,D and B.Hobijn(200)"Implementing Technology,"NBER Working Paper No.12886.
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