本年度は、研究の初年度であるため、まず食の危機に直面した人間の認知の基本的な有り様をどうと6えるのか、その大きなフレームワークを全体論的に明らかにすることをめざした。以下に示す研究論文がその1つの成果である。ここでは次の3点について考察を行った。(1)食の危機といわれる問題に対して、従来どのようなとらえ方がなされてきたのか、その先行研究を展望した。また食の危機と言われる現象が、実際にはどのようなものであるのか、その概略を浮き彫りにするよう努めた。(2)以上で明らかにした従来の理解を、近年の行動経済学的アプローチからどのように解釈できるのか。その理論的可能性と限界性を批判的に考察した。(3)最後に、行動経済学的解釈でもうまく理解できないアノマリー要因を指摘しつつ、さらにそれらを「認知経済学的」に整合的に理解する方法論を模索的に検討した。そしてその成果の1つとして、情動・感情と理性の関連性を考慮しつつ、新たに「理由に基づく行動モデル」によるリスク・不確実性下での意思決定というアプローチを提示した。このアプローチは、従来の経済学の基本的な分析概念である効用最大化行動モデルに代替する斬新なものであり、最初は心理学的な視点からSlovic(1975)、Slovic-Griffin-Tversky(1990)、Shafir-Simonson-Tversky(1993)たちによって提唱されたものである。ここでは意思決定を行う際の「視点」の問題が明確に取り扱われている。本研究は。今後まだ2年間続けられるものであるが、以上の考察で明らかにした理由に基づく認知と行動のモデルを基軸にして、さらにその研究内容を深めていきたいと考えている。またリスクと不確実性の認知の特性を、新たなニユーロエコノミツクス的な臨床的・実験経済学的手法を用いて明らかにしていきたいと考えている。
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