農業セクターと工業セクター間の所得格差を説明する二部門経済成長モデルから導く非線形構造方程式がタイの県別データの動きを説明できることを示した。供給面・生産面での技術進歩が経済成長過程にどのように影響をあたえているかを明らかにするとともに、需要面・消費面を規定する効用関数の性質についても明確にした。 二部門経済成長モデルの理論化の作業は盛んになされてきたが、実証作業の対象になることはほとんどなされてこなかった。理論が複雑であり、結果として非線形の構造方程式の推計を必要とすること、一方で、分析対象となる途上国の観察データの入手が困難であることが理由である。本研究は、タイの県別データの利用に注目することでデータの自由度を高め、非線形構造方程式の推計に容易に取り組める最新のコンピュータを用いることで、複雑な理論式の推定に取り組んだことに意義がある。 暫定的な結果を2010年12月、2012年12月に東京国際大学、2011年9月にタイ・コンケン大学で報告し、出席者からコメントを受け、2013年3月に東京国際大学のディスカッション・ペーパーを作成した。 二部門モデルでタイの経済成長過程を説明できること、非農業部門の内生的技術進歩を仮定するよりも外生的な技術進歩仮説を指示できること、などを示すことができている。モデルの基礎にある効用関数の形状についてさらなる検討を加えることが残された課題であり、その問題を解決しさえすれば学術雑誌への投稿に十分な質の研究成果になっている。 本研究の基礎にある個人行動を検討する作業の副産物として、フィリピンの家計データをつかいながら途上国におけるエンゲル法則を検討する別論文を作成した。この論文を作成することで、タイの経済成長経路に対する需要面の動きについて深い理解ができるようになった。
|