研究概要 |
1.多次元的福祉分析の厚生経済学的意義を,とりわけ所得分配の分析と比較して考察した. 2.昨年度に続きドイツ経済研究所(DIW)から提供されたパネル・データを利用して多次元的福祉の計測を行った.今年度は多次元的福祉の分布構造の時系列的比較を試み,08年度と04年度における分布構造の変化を考察した. 3.計測は両年度について因子分析を行い,抽出された6つの因子を多次元的福祉の構成要素(潜在能力分析でいう機能)とし,因子得点を調査対象者の当該構成要素に関する達成度とした.ついで6つの構成要素から総合的福祉指数を推計するために,(1)各因子の因子得点の合計をもって総合福祉指数とする方式と,(2)各構成要素の因子得点を左端の,家計所得および全般的生活の満足度を右端の観測変数,総合的福祉を中間の潜在変数とするMIMICモデルを組み立て,総合指数を推計する方法を用いた.MIMICモデルについては各説明変数から被説明変数への影響については有意な結果がえられたが,モデル全体の適合度は基準を満足しなかった.そのため構成要素および総合的福祉の分布の特性の推定には第1の方式による結果を用い,(2)の結果は参考とするにとどめた.ジニ係数および平均対数偏差(MLD)を計算した.また比較のために第一次所得および再分配所得についてもジニ係数およびMLDを計算した. 4.両年度について二つの係数に即して分布特性を比較考察し,いくつかの興味深い結果をえた.そのうち最も重要と思われる結果は個別の構成要素における不平等度(分配の格差)より総合福祉指数のそれが有意に小なることであった.また再分配所得を例外として04年度より08年度において格差は拡大したが,とくに総合福祉と健康については格差に大きな変化はみられなかった.
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今後の研究の推進方策 |
1.個別構成要素から多次元的福祉の総合指数を求めるいくつかの代替的な方法(二段階因子分析,MIMICモデル,主成分分析 etc)を試みる.平成23年度は因子得点を利用したが,因子負荷量の大きな変数を説明変数として分析を進めることや,対象者の属性別の絞り込みなどによるデータの遠別などが考えられる. 2.属性間の相異による分配の格差の計量分析 3.統合ドイツの(福祉)分配構造をより多くの年度に関して詳細に分析し,研究課題「統一ドイツの経済発展と分配構造」を完成させること.
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