ドイツ経済研究所の提供するパネル・データを使用して統一後のドイツの多次元的福祉(well-being)の動向を追跡し、ついで順序回帰とパス解析によって、多次元的福祉に影響する諸要因の実証的分析を行った。前年度までは多次元的福祉を因子分析によって推計したが、本年度はパネル・データに含まれる満足度変数をその代理変数として考察を行った。研究は次の3段階にわけて進めた。第一はコーホート別、年齢別の満足度の経年変化の考察であり、満足度の変化は分析期間(1992-2009)を通じて安定しており、各年において若い年齢層と高齢者層の満足度が高く、中年層の満足度が低いことが確認された。第二段階は順序回帰によって、年齢階層、性別、教育レベル、居住地域、雇用状態、健康および住居に関する満足度、年間労働時間、家計所得の満足度に及ぼす影響を推定した。満足度と所得の関係はイースタリンのファインディングとして研究者の関心の高いテーマであるが、第1、第2段階の分析によって、統一後のドイツでも同様の関係の存在が確認された。第3段階ではパス解析モデルを設計し、推計を行った。このモデルでは上記の満足度(総合的満足度)に直接間接に影響を与える諸変数を、それら変数間の関係もエクスプリシットに考慮して定式化されており、たとえば教育年数が労働時間や雇用状態、所得に及ぼす効果、さらに所得が所得満足度を経由して総合的満足度に及ぼす効果や、労働時間が直接総合的満足度に及ぼす影響と余暇時間に関する満足度を通じて総合的満足度に及ぼす効果等を分離して推計することが可能である。また同時に個別的満足度(健康、家計所得、余暇、住居等に関する満足度など)の総合的満足度への影響力の相対的な強度を比較分析することが可能であり、本年度の研究ではこれらについて高い精度をもった結果をえた。
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