本研究は、EUにとって、EU域内労働移動およびEU労働市場の問題がますます重要になってきているという認識の下、「拡大」と近年の「金融ショック」がEU域内労働移動およびEU労働市場にどのような影響を与えるのかを4年間の研究期間において明らかにすることを目的としている。2年目である平成22年度は、「金融ショック」が、EU域内労働移動にどのような影響を及ぼしたか、とりわけ金融ショックから大きな影響を受けた加盟国ハンガリーと、未加盟だが加盟申請中のアイスランドに焦点を当て、その経済的インパクト、社会的.政治的影響の大きさを明らかにしていくことを重点目標としていたが、海外出張のスケジュール調整の関係から、アイスランド一国に絞って現地調査を行い、関係者から貴重な資料を得た。現地調査と並行して、本年度もEUの関連法規及び政策文書、研究書、学術雑誌等を収集・整理する作業を行いつつ、昨年度3月に行った海外現地調査で得られた資料に基づき、「EUにおける国外派遣労働者-イギリスで生じた労働争議に関する一考察-」という研究論文を公表した。当論文は、金融ショックの後、経済状況が悪化し、失業者が急増したイギリスおいて、EUの国外派遣労働者をめぐって生じた労働争議をとりあげ、過去に全く取り上げられてこなかったイタリアの企業にも光を当てながら争議の全体を整理し、前年度の研究論文において発表したスウェーデンのケースとの比較を行うことによって、当該争議がEU統合に対して持つ意味を考察するものであるが、この労働争議はスウェーデンのケース以上に深刻な要素を含み、EUの域内市場政策に対する大きな障害となり得ることを明らかにした。
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