本研究は、EUにとって、EU域内労働移動およびEU労働市場の問題がますます重要になってきているという認識の下、「拡大」と近年の「金融ショック」がEU域内労働移動およびEU労働市場にどのような影響を与えるのかを4年間の研究期間において明らかにすることを目的としてきた。毎年、異なる国をケーススタディしてきたが、最終年である平成24年度は、欧州経済危機で注目を集めたギリシャの現地調査を行い、貴重な資料を得た。また、昨年度3月に海外現地調査で入手した資料を、本年度収集したEUの関連法規及び政策文書、研究書、学術雑誌の資料と突き合わせながら、分析・整理する作業を行い、「EUにおける経済的自由と社会民主的権利の衝突―ヴァイキング事件、ECJ先決裁定、モンティ規則を巡って―」という研究論文を執筆・発表した。平成22年度に公刊した論文ではスウェーデンを、平成23年度に公刊した論文ではイギリスを、それぞれケーススタディしたが、本年度の論文ではフィンランドについてのケーススタディを行った。本年度の論文によって、「拡大」がEU諸国の労働市場に大きな軋轢をもたらし、さらに近年の経済危機は状況の改善を難しくさせているという、先の2本の論文で明らかにされた結果が補強された。最終年度につき、年度内での研究公表を優先したため、研究成果の公表は査読無し論文という形式を選択せざるを得なかった。しかし、ケーススタディで取り上げた事件に関しては、その意義を本論文ほど客観的かつ詳細に分析する論文はないため、この研究分野において貴重な資料を提供するものとなった。ゆえに、内容的には先の2本の査読付き論文と同等に意義あるものである。
|