本研究の目的は、経営者の企業特殊的な人的資本投資と株主による経営者への監視との間のトレードオフ関係がどのように生じ、かつ解決され得るかを実証的に明らかにすることである。ここでのトレードオフ関係とは、株主による経営者への監視は企業の経営効率を高める機能を持つが、他方、株主の監視機能が強すぎると、企業価値にとり重要な経営者の人的資本投資へのインセンティブが阻害されてしまう可能性があるという点である。 平成23年度の研究成果としては、これまで整備した人的資本、企業統治、企業業績に関するパネル・データを用い、人的資本を重視する企業が株主との利害調整をどのように行うかを明らかにすることを目的として配当政策に関する実証分析を推進したことである。具体的には、人的資本への投資活動を維持するために資金の保有水準を高めるとともに、株主への配当を抑制するという「情報の非対称性仮説」を、一方で、人的資本を重視する企業は、資金の保有水準を高めるとともに株主へより多くの配当を支払うという「配当の利害調整仮説」を設定した。さらに、この仮説を検証するために、平成11年度から平成19年度までの9年間における製造企業をサンプルとして、資金保有割合および配当割合を被説明変数とし、人的資本重要度の代理変数である研究開発費売上高比率を説明変数とした重回帰分析を行った。その結果、人的資本が重要である企業においては、資金保有割合が高く、株主への配当割合も高いことが確認された。
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