本研究では、日本と米国の短期金利の動学を長期的な観点で分析し、ゼロ金利状態(ここでは便宜的に年率0.25%以下を想定)を表現できる短期金利動学のモデル選択を検討した。日本の短期金利の変動を長期的観点から実証的に分析した研究は多くない。特に、ゼロ金利状態に至る過程とその後の特異な変動を系統的に分析した研究、およびポストゼロ金利状態に関するモデル選択を論じた研究は筆者の知る限り存在しない。今般の金融危機で米国の短期金利もゼロ金利状態に至ったこと、および上場企業の経営において市場金利の影響が近年格段に高まっていることを考えると、この空白の解消は学術的かつ実務的に貴重だと思われる。本研究ではこの空白の解消を試みた。 平成24年度は、標準的な政策反応関数を包含する状態空間モデルを使い、標準的な政策反応関数で仮定される金利の平滑化仮説の妥当性を複数の角度から検討した。この仮説の当否は関心の高い問題であるが、その実証は困難な問題であることが知られている。前年度までの研究では、「ゼロ金利政策」などと呼ばれる金利の下限に着目することで、この困難を回避できる可能性が示された。このため、今年度の研究は主にこの問題を扱い、下限が顕在化していない時期における検証手段を調査した。その結果、他の経験的に妥当と思われる仮説合わせた同時仮説の検証として問題の仮説を評価できる可能性が示された。また、日本における実証に加え、米国の政策金利の政策シフトに関する分析も並行して行った。
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