23年度は、法と経済学に関するいくつかの基礎ならびに応用研究を行った。 1.「法と経済学」に関する査読付海外ジャーナルに掲載された論文で、自然独占のもとでの企業による災害に関する賠償責任が、通常の過失責任によるべきか、厳格責任が望ましいかを検討した。災害の規模が、企業の規模の利益に対して甚大である場合、厳格責任が望ましいというのが主要な結論であり、昨年の原子力発電の事故に関する賠償責任問題などにも、一定の示唆を与えるものであると考えている。 2.海外の準査読型のLaw Reviewに掲載された論文で、日本の労働法の優れた点と、近年における労働法の新規立法がもたらす欠陥について検討した。 3.公法分野における「法と経済学」についての解説論文では、公法分野の法と経済学は、私法以上にメカニズムデザイン論との密接な関連があることを意識しながら、法学徒向けにもわかりやすい説明を心がけて執筆した。 4.破産者の不動産の競売制度改革のための研究も行った。現在の日本の破産者不動産の競売方法は、ファースト・プライス・オークションと呼ばれる方式である。その他の方式として、セカンド・プライス・オークションやオール・プライス・オークションなどもある。三つの方式を比較する経済実験を行った。その際、loser regretという要因に着目し、落札価格を公表するセッションと公表しないセッションを設けた。ファースト・プライス・オークションでは、落札価格を公表するセッションの方が、入札額が大きくなっており、loser regretが起きていたことが推察される。
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