本研究では、証券市場の情報効率性に関し、日本の株式の取引所取引における短時間の情報効率性について、日中の取引データ(ティックデータ)を用いた検証を行うことを目的とする.前年度には、高流動性銘柄について過去5分間の注文不場衡により将来5分間の中値の変化を予測できるが、過去15分間の注文不均衡から将来15分間の中値の変化を予想することは困難である、またこの関係はビッド・アスク・スプレッドの影響を受けない、という結果を得た.ビッド・アスク・スプレッドは流動性の一つの指標であるが、この他にも様々な流動性の指標がある.本年度の研究では、流動性のうち板で待っている指値注文の数量である板の厚みが、注文不均衡の予測力に影響を与えるかを分析した.板が厚いほど流動性が豊富に供給されている点で望ましい一方、状況の変化により指値注文の修正が遅れるのであれば板の厚みが市場の情報効率的を低下させる要因となる.またParlour(1998)の主張するcrowding out effectにより、板の厚みが投資家の発注行動に影響を与えることを通じて情報効率性に影響を与える可能性もある.分析により、板の厚みは注文不均衡の予測力に影響を与える、という結果が得られた.影響はcrowding out effectと整合的であり、また板の厚みを考慮に入れるとより長期の中値の変化の予測が可能となる.但し、板の厚みの情報を用いても15分間先の中値の変化を予測することは困難であった.また、注文不均衡および板の厚みの情報を用いた投資戦略の収益性を推計し、予測力に対してビッド・アスク・スプレッドが十分に広く取引費用が高いため、成行注文を用いた場合に正の収益を獲得することは困難である、という推計結果が得られた.これら結果は、市場が十分に情報効率的であることを示唆している
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