本研究は、日本の株式の取引所取引(東京証券取引所における取引)における短時間の情報効率性について、日中の取引データを分析することにより、以下の5つの問題に答えることを目的としている.(a)注文不均衡情報は何分先の価格変化まで予測できるか、(b)注文不均衡情報の価格変化に対する予測力は、市場の流動性からどのような影響を受けるか、(c)注文不均衡情報以外の公表情報に追加の予測力はあるか、(d)注文不均衡情報を用いた投資戦略によりどれだけの利益をあげることができるか、(e)2002年3月の空売り規制の強化により、市場の情報効率性は低下したか、の5つである.前年までの研究により、問題(a)(b)(c)に関する解答が得られており、また(d)についても一部分析を行った.本年の分析により、(d)の短期取引戦略の収益性について、注文不均衡、ビッド・アスク・スプレッドおよび板の厚みを用いた投資戦略を行うにあたり、常に成行注文を用いる場合には正の収益をあげることが困難であるが、さらに条件付けをしてビッド・アスク・スプレッドの広い時に指値注文を用いてそれが確実に執行できるときには正の利益を手にできる可能性のあることがわかった.利益は指値注文の執行確率に依存するが、それに関する分析は将来の課題となっている.また問題(e)の空売りが情報効率性に与える影響に関し、空売り規制は注文選択に影響を与える可能性があるが、明確な影響は観察されなかった.但し、空売り規制の効果について、公表情報だけを用い平均的な発注について分析しているのみであるが、各売り注文が空売り規制にかかる注文なのかそうでないのかについての情報を用いると異なる結果が得られる可能性は残されている.
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