平成21年度は、研究課題の中心テーマである「グローバル・リバランス」のメカニズムを詳細に考察した。2000年代前半から発生していた世界的な対外不均衡の拡大(グローバル・インバランス)については、経常収支赤字国である米国と、経常収支黒字国である中国、東アジア諸国のどちらに拡大の原因があるのかは、定かではない。しかしインバランスの調整は米国からスタートする点については、概ね確認されている。そこでこの調整メカニズムを深く理解するために、米国の対外不均衡の特徴を、貯蓄・投資バランスの枠組みから精査することにした。具体的にはこれまで研究代表者が試みてきた経常収支の構造的変動と循環的変動という枠組みを、米国の対外不均衡にもあてはめ、同国の肥大化する経常収支赤字の特徴を実証的に検証した。そして2000年代以降、米国では構造的要因、循環的要因のいずれにも起因しない、その他要因が重要である点が定量的に浮き彫りにされた。さらにこの点を掘り下げていくと、1990年代後半からの米国住宅価格の高騰によって、家計部門の流動性制約が大幅に緩和され、過剰な消費が行われていた点が重要であることも明らかになった。なお住宅価格の高騰は、各種証券化商品の収益率を上昇させ、世界各国の投資家は、高い収益を求めて、積極的に米国への投資を加速させていた点も明らかとなった。
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