研究課題
平成22年度は、「グローバル・リバランス」のメカニズムをより一層詳細に考察した。2000年代前半から発生していた「グローバル・インバランス」については、経常収支赤字国である米国と、経常収支黒字国である中国、東アジア諸国のどちらに拡大の原因があるのかは、定かではない。しかしインバランスの調整は米国からスタートする点については、概ね確認されている。そこでこの調整メカニズムを深く理解するために、米国の対外不均衡の特徴を、貯蓄・投資バランスの枠組みから精査することにした。具体的にはこれまで研究代表者が試みてきた経常収支の構造的変動と循環的変動という枠組みを、米国の対外不均衡にもあてはめ、同国の肥大化する経常収支赤字の特徴を実証的に検証した。そして2000年代以降、米国では構造的要因、循環的要因のいずれにも起因しない、その他要因が重要である点が定量的に浮き彫りにされた。そしてこのその他要因を早期警戒指標として認識することによって、一種の「マクロプルーデンス政策」として有用である点も明らかとなってきた。また対外不均衡と表裏一体の関係をなす国際資金フローについても考察を進めることが出来た。各国間の資金取引は、基本的には資金余剰国から資金不足国へのファイナンスとして捉えることができる。グローバル・インバランスの拡大は、中国、日本などの資金供給国から、資金需要国である米国へ巨額な資金が流入していたことを示唆している。また欧州域内では、ドイツを中心とする経常収支黒字国が、経常収支赤字を肥大化させていた南欧諸国に資金を供給するというリジョナル・インバランスが発生していた。さらに2000年代に入り、米国と欧州の間では、おもに英国を経由する形で、巨額なドル資金の流れが形成されており、この資金フローは米国の住宅価格を高騰させていた可能性が高い。このように昨今の国際資金フローの特徴を精査する際には、インバランスというネットの動きのみならず、グロスの視点からの考察もきわめて重要となりつつある。
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The Japanese Economic Review
巻: Vol.62. No.2 ページ: 215-247