平成22年度には、日本企業の買収・合併・ダイベストメントについてのデータベースの構築を行った。取締役会の決議が公表された日付を特定するとともに、取引動機や目的、取引種別や取引条件といった取引属性についての情報の収集に努めた。これと並行して、企業財務データを利用して、買収企業と被買収企業(分離企業と被分離企業)の経営成績、財務状態、企業属性についてのデータベースを構築し完成させた。 実施計画に盛り込んで達成できなかったのは、株価リターンデータを利用した累積異常収益率の測定で、合併・買収・ダイベストメントの効果測定よりも、予備的な分析にもつながるそれらの決定要因に関する統計的な因果関係の推定と検定を優先させた。その一つが取締役会の構造と買収案受入れの意思決定との関係についての仮説を検証した研究で、学会において報告を行い、得られたコメントと提案に従い、修正と精緻化を図っている。 この具体的内容は、買収受入れの意思決定の要因として、株式保有構造や取締役会といったコーポレート・ガバナンス構造の違いが影響を及ぼすと考え、その可能性を統計的手法によって検証したものである。とりわけ社外取締役の影響力が経営者とは対照的に働く可能性を示唆した点は、その役割と機能を論ずる上で意義のある発見となった。 研究実施計画に示した、買収企業と被買収企業との間の資本関係の有無とその程度の大小が、両者間の富の分配にいかなる影響を及ぼすかについて論じた今一つの研究は年度内に報告できる水準には及ぼなかった。
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