研究概要 |
本年度は(1)2009年度に行った全国の信用金庫を対象としたアンケート調査をもとにした信用金庫のコーポレート・ガバナンスのあり方の数量的把握,(2)信用金庫の財務データや地域経済データをもとにした信用金庫の安定性の決定要因についての計量分析,(3)破綻金融機関の所有形態の違いが地域経済に及ぼす影響についての計量分析の3点について主に研究を進めた。このうち(1)については,信用金庫のコーポレート・ガバナンスの分類を行うために,新しい数量分析手法のひとつである混合分布モデルによるクラスタリングを行った。分析の結果からは,大都市圏から離れた地域を営業地盤とする一部の信用金庫では,優良顧客を非常勤理事として多く囲い込むことで経営安定化が図られる一方,非常勤理事に本来期待される経営監視機能が弱まっている可能性が示唆される。(2)については1990年代末の金融危機以降から2000年代前半に吸収合併や破綻が頻発した信用金庫の存続期間に影響を与えた要因についての検証を行った。ハザードを起こさない主体を含んだサンプルを想定したsplit population durationモデルによる推定から,積極的貸出姿勢と情報処理体制の不備が信用金庫経営に打撃を与えたことが示唆される。さらにサバイバル分析によってZ-Scoreが信用金庫の経営安定性の代理変数として有用であることを明らかにした。(3)については因果性の問題に十分に注意を払った場合でも,協同組織である信用金庫や信用組合の破綻が株式会社制をとる地域銀行に比べて地域経済に深刻な影響を及ぼすとの仮説は実証的に支持されないことから,協同組織金融機関におけるガバナンス・メカニズムの脆弱性が示唆される結果となった。
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