研究概要 |
この研究の目的は,配当と自社株買入・消却の両方を考慮した株主総還元政策について,日本企業が従来型の「安定配当政策」から決別したのか,その行動(変化)の背後に「横並び行動」があったかどうかを確認することを通じて,日本企業の株主総還元行動が周囲の企業行動からどう影響されているかを明らかにすることである。 当初計画では2008年9月のリーマン・ショックより生じる世界的金融危機と経済大不況は想定していなかったが,高利益・高配当を続けてきた日本企業の多くが2009年3月決算では一転して大幅赤字となり配当を激減させ,2010年4月時点でも景気回復にはほど遠い状況にある。この世界的金融危機は通常の環境(変化)とは具なり,「横並び行動」があったとしても通常のそれとは違う可能性がある。そこで本年度は,配当データの蓄積を進めながら,今回の世界的金融危機と経済大不況を引き起こした本質は何か,考察を開始した。 その結果,(1)米国サブプライムローン市場というローカルな市場で生じた問題が世界へ波及した理由のひとつは証券化とグローバル化であるが,1970年代以降に各国で実施された金融自由化により金融機関(行動)が変化したことのインパクトも大きい,(2)産油国や中国等の新興国に巨額な金融資産が蓄積しその資金運用が機関化した結果,投資行動が同質化し資産価格の変動性は高まった,(3)短期借入の繰り返しにより資金調達をする金融機関が増えた結果,金融機関が保有する金融資産の時価変動の高まり(下落)が金融仲介機能を低下させ実体経済にマイナス効果をもたらした,といった知見を得た。 今後は,金融セクターに生じたこのような変化を考慮の上,企業の総還元行動に関する横並び行動の理論モデル開発を進めていく。
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