研究概要 |
この研究の目的は,配当と自社株買入・消却の両方を考慮した株主総還元政策について,日本企業が従来型の「安定配当政策」から決別したのか,その行動変化の背後に横並び行動があるか否かを確認することを通じて,日本企業の株主還元行動が周囲の企業行動からどう影響されたかを明らかにすることである。 1990年代までの安定配当政策が2002~2003年度を境に増配に転じ,日本企業全体を集計すると2006年度の配当金総額は2001年度の4倍弱である。配当の決定理論はいくつか並立しているものの,そのうちのライフサィクル仮説を支持する先行研究が多い。ここでは,個別企業の一株あたり配当金に関する実証分析を行い,日本の企業についてもライフサイクル仮説が支持されることを確認するとともに,2004年度以後はそれ以前と比べて行動パラメターの推定値が統計的に有意に変化したことを見いだした。また,2004年度以降配当を変化させた企業を増配/減配/復配/無配転落という4つのカテゴリーに分類しロジットモデルを推定したところ,企業のライフサイクルをとらえる変数の他,総資本利益率(ROA)の影響が圧倒的に強いことがわかった。 毎年一定した自社株買入・消却を行っている企業はない。そのため,株主還元として配当との代替・補完関係が関心事となる。2003年度以降について調べたところ,取得金額が数百億円にのぼるものは株主総会決議を経ているが,実施件数が圧倒的に多い取締役会決議による取得では,取得金額は数十億円であった。自社株取得金額を被説明変数とする計量分析を行ったところ,配当は,株主総会決議による自社株取得に対しては負の,取締役会決議による自社株取得に対しては正の効果を有意に与えていた。消却に関する計量分析でも同様の結果が得られ,決議体ないし取得規模によって,配当との代替・補完関係が異なることが明らかになった。
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