18・19世紀前半の北西ドイツ北海沿岸地方の農村の地域組織を支える役職者・農民的上層の社会的状況及び領邦支配との関係、さらに地域組織による環境管理問題への対応について、主に同地方東部のエルベ川河口湾周辺部(ハーデルン地域など)を中心に、文献・史料の調査を行った。 地域役職者(やその基盤となる農民的上層)の社会的状況については、昨年度までの調査で欠けていた官吏名簿の巻を中心に調査し、また一部教区分の選任記録も調査し、役職者の氏名、就任・退任年、その他の付属事項などの情報を収集した。地域役職者の土地所有の規模について、地租関係資料からは18世紀に関して系統的な把握可能性が地域的にかなり限定されることがわかったが、堤防団体の「特殊堤防簿」から一定の推計が可能であることが判明し、そこから主に3教区分を調査した。この地方の相続慣行については、19世紀の調査記録から農地の不分割相続にも分割相続になり得る柔軟さが確認され、その性格上相続・遺産関係文書が大量に作成され、かなり現存するとみられることがわかった。地域役職者の家族的・家系的事情については、自治体史を調査してある程度の情報を掴み、次に戦前・戦後の郷土史家たちの手稿・収集資料を調査したほか、19世紀初頭に編纂された注目すべき史料群を見いだして一部を抽出的に調査し、役職の家系的集中傾向の特質(地域差など)や、農民的上層と市民的世界や領邦地方官吏の一定の関係の存在が判明した。地域組織の環境管理問題への対応については、堤防団体が作成した報告(「一般堤防簿」)を調査し、広域的な堤防管理が自治的かつ教区連合的に組織されていたこと、18世紀末における堤防・護岸強化問題で多額の費用負担のため広域自治組織が領邦当局と行った折衝記録から、堤防管理をめぐる地域組織と領邦当局の関係が防災への工学的対応を通じて前者の主導で変容し得たことが判明した。
|