研究課題/領域番号 |
21530327
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研究機関 | 立教大学 |
研究代表者 |
沼尻 晃伸 立教大学, 文学部, 教授 (30273155)
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研究期間 (年度) |
2009-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 農家 / 日記 / 農作業 / 奉公 / 渇水 / 公害対策 / 水利用 / 土地区画整理 |
研究概要 |
本年度の研究成果は、3点にまとめることができる。 第一に、静岡県三島市に関する研究について,三島市役所・三島市立図書館,静岡県立中央図書館などで,戦時期~高度成長期の都市近郊農村における土地や水の利用と生活変化に関する資料を収集するとともに,1950~60年代の企業進出に伴って生じた渇水問題への農家の対応に関する研究をまとめた。国の法律と県の政策枠組のもと,農家側は企業側の地下水利用自体を規制することはできなかったものの,工場排水(冷却水)の利用に関して,自治体を交えての協議ものもとで,農家側の要求を実質的に認めさせていった点を明らかにした。 第二に,兵庫県尼崎市に関する研究については,これまでの調査の過程で発掘した兼業農家の日記の翻刻作業をさらに進めるとともに,新たに,尼崎市近郊農村の地主文書の利用許諾を史料所蔵者から得て,その目録作成と分析を開始した。同時に,これらの資料群と,尼崎市農業委員会資料とを利用して,対象時期を高度成長期――即ち土地区画整理実施後――に移して,都市近郊農村社会の変容に関するミクロ分析に着手した。 第三に,新潟県の小作農民を対象とした研究に関しては,この間の分析の精緻化を図り,「農民日記からみた農作業の担い手と結婚・出産・奉公―1920年代後半から戦時期を中心として―」というタイトルの原稿草稿を作成し,外部の識者を交えた研究会で報告し、識者からの意見や批判を仰いだ。この研究では、当該期の農作業の特徴として,家族内における農作業の分業関係をふまえたうえで,家族内労働のみならず姻戚関係や集落内中下層農との近隣関係の重要性を指摘した。また家族外に農作業の担い手を求めた理由としては、単に農繁期の労働力不足のみによるものでなく,妻の出産,子の奉公や結婚や出産による労働力不足が重要な意味を持っていた点を指摘した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題4年目に入り,3年目まで研究の中心であった新潟県の小作農民に関する研究に関して一定の研究取りまとめの方向性が見通しが経つ段階に至ったとともに,新たにフィールドを設定し資料収集を行っている,兵庫県尼崎市,静岡県三島市に関しても,日記や行政村・大字の史料などの収集が着実に進んでおり,三島市の事例に関しては,水利用に即して農家の所有・生産・生活をめぐる諸関係が明らかにするとともに、それらと国や地方公共団体との政策との関連・対抗に関する考察を発表することができたため。
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今後の研究の推進方策 |
基本的にはこれまで通り研究計画を進めていく予定であるが、新たに発掘し、所蔵者から利用を許されている兵庫県尼崎市における兼業農家の日記の史料的価値がきわめて高く、かつ分量が膨大であること,大正期まで遡って研究した本研究課題であるが,残された期間は2013年度のみとなったため,高度成長期を中心に研究を進め,5年間の研究総括を進める必要があることなどの理由から,これまで土地区画整理との関連で研究を進めてきた尼崎市都市近郊農村と,水利用に関して分析を進めてきた静岡県の近郊農村の,戦後改革期~高度成長期に対象と時期をしぼって,研究を進めていく予定である。
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