研究概要 |
本年度の研究成果は、3点にまとめることができる。 第一に、兵庫県尼崎市に関する研究について,尼崎市農業委員会史料や日記史料などを利用して,高度成長期――即ち土地区画整理実施後の農村社会の変容に関するミクロ分析を行った。ここでの研究成果は、以下の3点にまとめられる。1.戦後改革期には農地改革の対象地区を巡って激しい利害対立を引き起こしていた地主自作層と自小作層が,高度成長期には「生活の安定」という意味での農地転用により利害が一致し始めたこと。2.「生活の安定」という意識が生まれる背景には、農家のライフサイクルの変化があり、特に農家子弟が農業を後継しない場合の教育費の増加と老後保障という意味が込められたこと。3.農家による農地転用は,「生活の安定」という正当性を拠り所に農業委員会に申請され正当化されたこと。これらの点から、土地区画整理事業が当初想定していなかった農民の論理が埋め込まれて市街地形成が進んだ点を明らかにした。以上の点は、社会経済史学会全国大会で報告し、現在これまでの尼崎に関する研究とあわせて学術図書としての刊行を準備している。 第二に、静岡県三島市に関する研究について,三島市立図書館,静岡県立中央図書館などで,主に高度成長期の都市近郊農村における土地や水の利用と生活変化に関する資料を収集するとともに,聞き取り調査を実施した。1960年代後半における工場排水と生活排水が,農業用水に与えた影響を明らかにした。 第三に,『西山光一日記』研究に関しては,『西山光一日記』『西山光一戦後日記』の分析の精緻化を図り,研究代表者と連携研究者である飯田恭(慶應義塾大学)とで、前年度までの研究成果をまとめる形で沼尻晃伸「農作業の担い手と結婚・出産・奉公―1920年代後半から戦時期を中心として―」及び飯田恭「『西山光一日記』にみる家屋の普請」という2本の研究を収録した報告書をまとめた。
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