1.概念史的検討の作業については、ドイツの行政法学者フォルストホフによって提唱され、「給付行政」概念を根底で支えた「生存配慮」概念にまで遡り、法学研究の成果も踏まえてクレマーの「社会政策的都市政策」概念との関係の明確化に努めた。その結果、(1)「社会政策的都市政策」概念が病院、老人ホームなどを重視するのに対して「生存配慮」概念は供給事業や交通部門が本来的領域とみなすという力点の違いがあるが、「社会扶助」とは区別されて有償ながら所得や階層に関わりなく都市住民全体に均等に提供されて都市社会の統合を促す都市行政サービスという点で共通すること、(2)しかし「社会政策的都市政策」は救貧などの「都市社会政策」とともに「社会国家」を支え、「社会国家」の再編のなかで改めて都市自治体を担い手として構想された現代ドイツにおける「社会都市プログラム」のなかにも流れ込んでいることを確認した。 2.実証作業については、昨年獲得した展望を踏まえて一次史料を利用した実証分析に着手し、「給付行政」および「生存配慮」の代表的分野である都市公共交通の発達・公営化について、1890年代から第一次大戦までのドイツのフランクフルトの事例について検討した。その結果、(1)市街鉄道の公営化によって運賃水準一般の引下げが行われたが、とくに注目すべきは市参事会によって提案された労働者用の週定期であり、市議会の検討により一定所得以下の労働者以外の広範な社会層にも適用が拡大されて通勤の便宜がはかられ、都市住民の市街鉄道の利用層の拡大が促進されたこと、および(2)こうした「生存配慮」を実現するための「社会政策的都市政策」は、時期的には「生存権」にもとづく「社会扶助」に先行して「社会都市」から「社会国家」への道を準備したと想定できることを確認した。
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