本研究の目的は、「在来的経済発展」論から日本の経済発展の類型的な特質を展望し、あわせて労働集約型工業化論など、近年のアジアの経済発展の特質をめぐる諸研究に対しても、新たな含意を加えることである。当該年度は、まず、これまでも主たる分析の対象であった玩具産業について、アメリカ、イギリスおよびドイツの統計データの収集を基盤に、国際玩具市場の展開過程とそこでの競争構造の変化について検討を行った。その作業によって、これまで進めてきた戦間期日本を対象とした玩具史研究を、グローバルな経済史の中に位置づけることができ、さらにその過程で、日独米英4ケ国の玩具工業の比較史研究の意義が改めて浮上した。特にドイツとの生産構造の比較が重要となるので、ドイツ経済史の専門家との交流を深め、共同研究も構想している。また日本の玩具輸出最盛期1950-60年代の分析の基本資料となる業界雑誌のコレクションを、特別に電子媒体で入手し、検討を行なっている。また昨年度手がけた、東京の戦間期における社会関係の形成に、都市小経営がどのように関わったのかという問題につき、国勢調査等の住民データの分析をまとめた論稿を作成した。また、やはり継続して手がけてきた消費行動を家事労働供給との関連で検討する作業については、近世・近代の古着流通に着目し、衣料消費の観点からデータを整理し、家計における衣料消費と古着利用の関連についての考察を行った。在来的経済発展論とも関係の深い二重構造論について、労働供給の観点から比較史的な議論を行った論稿もまとめている。これらの成果は、世界経済史会議2012(南アフリカ・ステレンボッシュ大学)における3つの口頭報告でも発表されている。以上を総括した書籍の出版に向け、出版社との交渉も始まっている。
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