研究課題の「近世農村における賃銀労働者家族の形成」に直接かかわる翻訳を今年度行った。論文名は「イングランドにおける農業資本主義の興隆と家族農業の衰退」というもので賃銀労働者家族の形成が、通説的に言われるように近代ではなく近世に求められるとするものであり、本研究の課題と密接に相補完するものであったと言えよう。実は、この論文は2007年に原著者が来日した折に報告者の当時の科研費「近世イギリスにおける家族の成立」でセミナを開催した際に原著者が読んだものであった。その際、報告者は二つの問題点を取り上げた。一つは農業類型の問題で、穀作地域と牧畜地域では賃銀労働者家族の形成の時期が異なるのではないかという点である。この点に関しては原著者は本論文においては大幅に承認したと言えよう。これに対してもう一つの問題点とした、奉公人と賃銀労働者の無区別性に関しては今回の論文でも容認されえていなかったと言えよう。これらの点に関しては、報告者の既発表の論文などにも取り上げたところであるが、今回の翻訳のあとがきでも解説したがまだ不十分であり、今後の自らの実証研究の中でさらに解明していくことにしたい。
|