本課題に中心にある賃銀労働者家族の形成とは、通常小農民家族のいわゆる農民層分解の帰結と考えられている。その一方で、近年小農民家族の中には奉公人が含まれていることが自明となっているが、小農民家族の分解過程で奉公人がどのように変質したかは依然として不明のままであろう。その背景として、本研究では「イギリスの奉公人=ライフサイクル奉公人」という非歴史的仮説の存在があると考え、その再検討を本年は行った。 本年度発表した2論文は、それぞれ研究史と実証による上記仮説の検証の試みである。その結果、かつての国際論争や最近の地域史研究を再構成すると、イギリスにもライフタイム奉公人が存在したのみならず、ライフタイム奉公人からライフサイクル奉公人へという歴史的移行が見られたという新たな仮説が展望できることが判明した。その一方で従来もっぱら職業記録として用いられてきた「兵役簿」を年齢記録として用いることが可能であることを、教区簿冊を用いて検討した。さらに、年齢記録としての兵役簿によってこの新たな仮説が検証可能であることも示した。 さらに副次的に上記「イギリスの奉公人=ライフサイクル奉公人」仮説の背景に、日本とイギリスの国際比較が大きな影を落としていることも判明した。
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