平成21年度の研究成果は、海軍軍令部『極秘明治三十七八年海戦史』「第五部施設(19冊)」の史料検討を本格的に行うことにより、四海軍工廠(横須賀・呉・佐世保・舞鶴)の日露戦時における艦船兵器の製造・修理の実態を詳細に示した(「日露戦争期における海軍工廠-海軍軍令部『極秘明治三十七八年海戦史』分析-」『獨協経済』第87号)。そこでは日露戦争期の海軍工廠の生産(製造・修理)と戦時動員の様相を今まで以上に明らかにできた。とくに四海軍工廠の中では横須賀工廠の先行性とともに呉工廠の急拡張ぶりは顕著であり、後者における大戦艦同時二隻建造体制構築と大砲・装甲板製造は「軍器独立」上極めて注目されることを強調した。また、海軍工廠における「ワンセット体制」については日露戦争中においては必ずしも十分とは言えず、とくに佐世保・舞鶴両工廠の場合は近郊民間造船所等の「支援」が不可欠な状況であったことも明らかにした。 上記に引き続き、第一次大戦期の海軍工廠について、海軍軍令部『大正三四年戦役海軍戦史』『大正四乃至九年戦役海軍戦史』の検討にとりかかったが、上記『極秘明治三十七八年海戦史』と異なり、各鎮守府・工廠ごとの記述はあまり実りのあるものは得られなかった。そこで、平成21年末から取りかかっている防衛研究所所蔵の関連史料分析と併せて、22年度中に史料的に明らかになる範囲のことをまとめる。 また、交付申請書「研究の目的」、「研究実施計画」に記載した民間軍事関連企業及び海軍兵器の輸入・販売を担った商社(とくに高田商会)についても史料収集・調査は進展したが、分析結果をまとめるまでには至らず、22年度の課題として引き継がれている。
|