平成24年度においては、まず日露戦争直前における戦艦二隻(後「香取」「鹿島」と命名)同時発注問題を英国総合兵器会社2社(アームストロング社とヴィッカーズ社)の激しい受注競争との関係で考察した。本問題は、従来財政的に問題ないとの趣旨から殆ど全く検討されて来なかったが、英国に現存する資料をも検討することにより、2社の激しい受注競争とそれを背景とした日本海軍の編み出した妙案について解明し、後の巡洋戦艦「金剛」発注・受注との相似性と差異をも明らかにすることが出来た。 次いで、史料的に未解明であった高田商会(海軍兵器供給で大きな役割)について、同社に先立つアームストロング社代理人・代理店との関連で解明した。また、平塚の海軍火薬廠について、先行の英国法人日本爆発物会社からの技術移転の経緯を明らかにした。また、日英合弁の兵器鉄鋼会社日本製鋼所について、従来の筆者による研究をふまえて、「利害関係者」という視点からあらためて同社の設立発展の意義を再考察した。とくに呉海軍工廠長・呉鎮守府司令長官を歴任して日本製鋼所取締役会長に就任した山内万寿次の役割に注目し、日本側出資者北海道炭鉱汽船会社と英国兵器会社二社との関わり合いを具体的に明らかにした。さらに、それらをふまえて、ジーメンス事件(とくにヴィッカーズ・金剛事件)について、かつて筆者も関わった共同研究の成果をふまえて「残された謎」の解明に挑んだ。その中で「灰色高官」として処理された山内万寿次の役割について、新発見の史料(斎藤実に宛てた「留書」)の解題をも行った。 そのほか、かつての拙論二編(日露戦争期の海軍工廠の役割及び呉工廠と日本製鋼所との関係)について加筆補正作業をも行って「軍器独立」に果たした役割を明らかにし、以上のすべてを一書『日本軍事関連産業史ー海軍と英国兵器会社ー』に収録・刊行した(日本経済評論社、平成25年1月末)。
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