研究概要 |
近代化における市場統合と生活水準変動に関する日英比較研究のため、今年度は以下の成果を得た。 1.イギリス労働市場について、イギリス機械産業雇用者連合(EEF)の賃金資料を収集し1856-1965年におよぶ、全国70数か所の地域別賃金データ系列の整理をほぼ完成した。これは、熟練工労働市場の変化をみる上で極めて重要なデータであり、イギリスにおいても、同様のデータは大工・農業労働者について、T.HattonとG.R.Boyerが整理したものしかない。また、本データを用いた分析結果の一部を、社会経済史学会・近畿部会(09年10月)、ケンブリッジ大学地理学部(10年2月)、ウォーリック大学人文学部等(10年2月)において報告・検討した。また、市場統合の大きな要因の一つである労働移動についての資料収集を行った。合同機械工組合(ASE)の組合員移動記録につき、1865年から1895年まで7,000ページの撮影し、一部の整理を終了した。 2.日本の熟練工労働市場について、大工の賃金決定に関する制度的資料の収集を行った。明治初期に設立された京都の大工組合会社の総規約を調査・分析を行った。また、関東における大工組織の形成につき、大工職組合皮匠会の資料、また明治30年の横浜の大工争議を調査した。明治期の大工組織の研究は少なく、この研究は日本の労働市場の近代化について新しい知見を与えるものである。 3.Anglo-Japanese Conference of Historiansの関連セミナーとして、09年9月にMaxine Berg(Warwick University)、Alastair Reid(Girton College, Cambridge)を招聘してセミナーを(それぞれ、大阪大学、京都産業大学で開催)行った。それぞれ技能技術伝播、産業地域の形成に関する報告がなされた。
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