今年度は、当初からの研究目的である3点、1.労働移動と市場統合との関連を数量的に明らかにすること、2.新技術・制度の導入の影響と市場統合の関連を明らかにすること、3.実質賃金・体格などの生活水準指標と市場統合の関連を明らかにすること、をもとに計画された「研究実施計画」にしたがって、以下のような研究実績があげられた。 1. については、昨年度以来のイギリス機械工の労働移動と市場統合の関連を研究するためのデータ整備をほぼ完了した。昨年度は1865年~94年のデータ・ベース化を行ったが、今年度は1895年~1914年のデータ入力と整理を終了し、昨年度入力しなかったデータ中の労働者の年齢も入力した。これにより、移動労働力の諸属性による労働市場統合への影響の相違が推測することが可能になった。 2. については、日本の熟練工労働市場の事例研究として引き続き、京都を中心として明治-昭和戦前期に大工の産業組織の変遷を調査した。京都の「大工会社」の実態を明らかにするため、新聞資料などの収集を行った。また、日本の熟練工の事例として、酒造業の職人である杜氏の資料収集を行った。特に、当時の技能形成にかかわる徒弟制度について、各地の酒造業組合の業界誌・組織史を収集・分析した。 3. については、すでに完成している20世紀初頭から30年代までの男子身長変化と市場統合度の関係性についての簡単な回帰分析を行った。 また、研究進展についての検討するため、イギリスに基盤を置く経済史研究学会であるEconomic History SocietyのAnnual Conferenceでの報告を行った。また、社会経済史学会の全国大会で報告を行い、建設的な議論の交換を行った。
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