当該年度は、第1に株式公開買付け(TOB)の対象となった企業の少数株主に対する法的保護の状況の実証分析を中心に進めた。分析結果として、日本ではTOB後の残存株主利益が毀損されていることを確認し、その原因が日本では実質的な強圧的二段階買収の比率が高いこと、その状況は会社法改正、金融商品取引法施行後も継続していることを示した。この結果は、日本のM&A市場において価格メカニズムが歪められていることを示唆し、日本においても米国やEU同様に強圧的二段階買収を制限する法制度の必要性を示している。この結果は、中間報告という位置づけで論文「TOBと少数株主利益」にまとめ、日本私法学会大会シンポジウム(『コーポレート・ガバナンスと実証分析:会社法への示唆』)で報告している。当該報告については、その後の公開会社法に関する議論の中で法制度改革に具体的な示唆を持つ研究成果として取り上げられている(例:日本経済新聞2010年4月14日朝刊『経済教室:会社法制の行方』)。さらに、当該研究成果については、英文論文"Controlling controlling shareholders Japan"にまとめ、2010年7月開催のアジアファイナンス学会の報告審査を通過している。第2に、ファミリービジネスにおける創業者ファミリーと少数株主の利益対立の潜在性に関する分析を行うため、百貨店業界に焦点を当て、戦前から現在に至る株式構成、経営者交代、財務パラォーマンスに関するデータベース構築を進めた。
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